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# ニクソンショック #
昔むかしのお話。
腰を痛めているのか、ひたすらに腰を擦りながら歩いてくる男がいる。
ニクソンだ!
彼は、名前とは裏腹に100%純度の日本人である。
何を間違ったか、両親の一時的な思い付きで、
彼の名前は西洋かぶれになってしまった。
しかし、姿格好も日本そのものである。
職業は農民だが、忍の格好をしている。
どこかズレているようだ。
彼の頭の中では、「日本=忍」の方程式が成立している。
両親を元とした彼を取り巻く環境が為せる業だ。
お気の毒に。
けれど、そんなことは思いの寄らない彼は、
てくてくと峠を突き進んでいた。
周りの人は、彼をジロジロ見るが気にしない。
みんなは、揃って思う。
コスプレ?忍がいかにもって格好で真昼間に出歩かんよな?
そんなニクソンは、何故歩いているかというと、
実は例の両親にお遣いを頼まれたからだ。
ニクソンの頭に24分前の光景が浮かぶ。妙に細かいタイムだ。
彼の家は、周りにあまり家はなく、
他の家とは少し距離をおいて家がある。
決して周りが変人を避けてるわけではない。
現に2,3軒は近くにあることだし。
そんな自宅での24分前だっけ?の出来事だ。
「ちょっとお遣いを頼まれてくれない?」
台所から母親の声が聞こえる。
「うん、いいよ。何を買って来ればいいの?」
快諾するニクソン。
「あのね、こないだうっかりサブマシンガンの弾を
買い込むのを忘れちゃって。」
「うん、わかった。いつものように2袋でいいよね?」
「うん。ありがとうね。」
えらくミリタリーな会話だが彼らの中では普通のことだ。
パンピーにわかるように翻訳すると、
大根の種を買うのを忘れたから買ってきて頂戴って話だ。
彼らの中では、「大根の種=サブマシンガンの弾」なのである。
何度も言うが彼らにとっては、極自然な会話なのだ。
でまあ、そんな情景を心に描きつつニクソンは歩いているわけだ。
依然歩いていると、ニクソンはあることを思った。
(そういや、母さん。最近よく物忘れするんだよなぁ。)
母親に対する誹謗中傷だ。こめん、ニクソン言い過ぎかなぁ。
この場を借りて謝っておくよ。
つまりは、母親の何気なく迫り来る老化が気になったわけだ。
これでいいかい、ニクソン?
では、話を続けるよ。
そこで、ニクソンはお遣いの他に、
ボケ防止に良い食べ物を探しに行くことにした。
町に着いて、取り敢えず、その辺の人に入念な聞き込みを試みる。
「ボケ防止に利くような食べ物って何でしょうか?」
突然の質問に、町の人たちの珍回答が続出だ!
ある人は、
「え?ボケ?ボケってあのボケ?ん?魚の名前だっけ?
あ、ああ、それはボラか。?いや、ボケって魚もいそうだな。
ほら、ボケとかボッケっていう。」
いや、いないだろ。そんな魚。あんたがボケてんだ。
またある人は、
「ボケって日本語なの?何語?何を表す言葉なん?」
問題外だ。知識がないだけなのかはたまた。
そんなこんなで、ニクソンの聞き込みは徒労に終わった。
負けるなニクソン。落ち込むんじゃないぞ。
さて、ふと思ったが町の人よ、
彼の怪しげな格好を見て何とも思わなかったのかい?
あんた、黒装束ですよ?そんな人に話しかけられて
恐怖感とか危機感とか多少も感じなかったんですか?
まあ、多様な民族の住む町の人の意識が、
彼を別に特ある人に見せなかったのかもしれませんね。
けど、ある程度は、危なさ感じた方がいいですよ?
それが長生きのポイントになると思うんやけど。
それはそれとして、ニクソンのお遣いは続くわけで、
とうとう、種の売っているお店に到着したんですね。
(えーっと大根のはどこにあるんだろう。)
そんな感じで種を探します。
しばらくすると、あることに気付きました。
このお店は、種をできる実の色で分けて棚に並べているのです。
妙な感性です。持ち合わす感性は人それぞれだから仕方ありません。
(大根は白だからぁ、白、白、白…。あった!)
ありました!大根の種です!
ニクソンは大根の種を手に入れた!ってロープレ風な感じです。
そんなわけで、会計を済まし、家路に着くことになりました。
帰途は別段何も無く、結構一瞬で着いてしまいました。
「母さん、買ってきたよー。」
すると、台所の方から割烹着を着た母親が出てきました。
ちなみに、暖簾があるので、一応手で押します。
しかしながら、暖簾に腕押しです。勢い余って、
玄関に飛び出るのでした。
そんな自分に内心びっくりしながら、母親はこう切り出しました。
「これ、ニクソン。私に報告する前に、
まず一家の主であるダディに一言挨拶するのが先でしょう?」
ニクソン、叱られました。それにしてもダディですか。
少し嫌な顔をしましたが、ニクソンはごめんなさいと謝って、
父親のいる居間へと行きました。
「ダディ、報告がおくれました。」
この家では、父親をダディと呼ばしているのか。
「例の物資を手に入れ、ただいま無事帰宅いたしました。」
「よろしい。部屋で休憩をとってもよいぞ。」
威厳のある声の父親だ。けれども、ミリタリー一家だね。
父親の言葉を聞いて、居間を後にしようとした時、
父親が何か思い出しました。
「そういや、息子よ。お前、今日で20歳だったな。」
ニクソンは体を反転させ、父親の前の座布団に座り、
「はい。」
「今日から成人というわけだな。」
「はい。」
「ならば、この家のことを話そうではないか。」
何やら父親の口から中々に重たい話が告げられそうな勢いである。
「実はな、この家では、成人になった証として、
昇進しなければならないのだ。
そこで、晴れてこの家を継ぐことのできる成人として認められるのだ。」
やはり重たい話だ。父親は予想を裏切らない。
「でだ。昇進のために、今から任務を与えるのだが、
その覚悟はあるか?」
「はい。」
頼もしい返事だ。
「よろしい。では、任務内容だが、隣の家の人を暗殺してほしい。全員だ。
手段は選ばない。生死も問わない。何でもOKだ。」
「は?今何と?」
無理もない。それは聞き返す。
「聞こえなかったのか?隣人を殺せと言うのだ。」
「は、はい。」
返事すると同時にニクソンは悟った。行数にして7行である。
(そうか。それで、うちの周りには極端にご近所が少ないのか。
子供の頃はもうちょっと居たような気がしてたんだけどなぁ。
なるほど、こういうことだったんだな。
じゃあ、幼馴染みのみっちゃんも信介お兄も昔隣に住んでた元気なじーさんも
みんな、兄さんや姉さんが殺しちゃったのか!
母さんがみっちゃんは遠い所に引越ししちゃったのよ。って言ってたのも
全部全部嘘だったんだな!!)
恐ろしい家である。
父親は続ける。
「この任務には、危険が伴う。
しかし、もし命を落としたとしても2階級特進だから、
我が親族としてちゃんと墓には入れてやるぞ。心配するな。ハッハッハ…。」
案ずるなと、大きな声で笑う父。
そんな父親のオイルショック並みの重大発言に、
ニクソンはその後声も出なかったという。
昔むかしのお話でした。
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