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7.
「さて、今日も剣の修行へと移ろうか。」
(ん?そういや…。)
気が付けば何日もここに留まっているグラス。
(なにゆえおれはここにいるのだろう…?)
「これ、グラちゃん。返事をせんか。」
「おう!」
(ま、いっか。)
「それでこそ、わしの二番弟子じゃ。」
グラスは城に行く事をすっかり忘れていた。
そんなある日。
「じじぃ、暇やぁ。」
そんなグラスの言葉は老人には全く聞こえていない。
「じじぃ、耳遠いんか?」
「グラスさん、失礼ですよ。ご主人は例によって読書中です。邪魔したらいけませんよ。」
グラスの酷い言葉を某家電製品が遮った。
「んな事言われたって暇やねん。」
「では、わたくしのように掃除をなされては?」
「嫌。」
即答するグラス。
「大体何でこうしょっちゅう嵐なん?」
「山の天気は変わりやすいですから。」
「それはなんかちゃうやろ。」
彼らの漫才を他所に、外では以前のように嵐が吹き荒れていた。
部屋の中は彼らの漫才を除いては静かなもので、暖炉のバチバチッといった音が聞こえるぐらいだ。
「そういや、あの窓何もせんでも大丈夫か?」
例の田んぼの田だ。
「さぁ。一応今まで割れた事はないんですが…。」
一旦気になり出すと窓の音がやたらうるさい。
無理もないこの風だ。
ガタガタ…ガタタンッ…ガタタタタ………。
しばらく窓の音だけが会話の途切れた空間に響いていた。
外では相変わらず風が唸りをあげて物凄い音を立てている。
その時だ。
「……もう。」
なにか風のような人のような声がした。
「ん?今人の声みたいなんが聞こえへんかったか?」
「風の音ではないですか?」
「うーん。いや、人の気配がする。」
グラスの予感は当たった。
「頼もぉぉおおお!!!」
明らかに人間の声だ。しかも、腹式呼吸ばっちり。
「ご主人、道場破りですよ!!こんな嵐の日に。」
「わかっておる。」
老人は静かにそう言うとパンと本を閉じドアの方へ向かって行った。
この文章思い切り使いまわしではなかろうか…。
老人がいつしかと同じように気圧の関係で重くなったドアを開けると、
そこにはエルビスプレスリーの真似でもしてるのかと思える格好をした少年が一人立っていた。
「小僧、こんな日に道場破りたぁ、いい度胸じゃな。」
老人のセリフは台本で決まってるのか?
「えっ!?」
「何じゃ、その拍子抜けした声は?さぁ表へ出ろ!!」
「いや、おれは違…。」
「えぇい、問答無用!!」
老人が刀を抜く。
「げ…。」
少年の顔が引きつる。
「小僧も剣を抜けぃ!!見た目は持ってないが刃物ような鋭いものを持っている感じがする。」
「くっ…。」
(この老人、何も言っても聞きそうにないな。)
少年がそう思うや否や、
「くらえ!!サーベルレイン!!!」
少年のエルビスっぽい腕から無数の羽根の刃が老人目掛けて飛び出した。
「やはり剣を持っていたな。」
ニヤリと老人は不適な笑みを浮かべた。おい、それは剣なのか老人。
作者のつっこみも虚しく老人の危ない病は止まらない。
「無駄じゃよ。」
老人が刀を一振りすると羽根は全て少年の制御を離れ、真っ二つになったただの羽根と化した。
さらに老人はそのまま攻撃に転じる。見る見るうちに消える刀身。
(何だ?)
そう思う間もなく少年の腕は折られていた。
「ぐあっ!!!!」
少年はその場に蹲る。
「安心せぃ。峰打ちじゃ。さぁ中に入れ。手当てしてやる。」
少年は何が何だかわからないが老人の言葉に従う事にした。
8.
「三蔵、手当てを頼む。」
老人が事を終えて戻ってくる。
「また被害者が出たみたいですね。」
「そうみたいやな。」
老人の後から妙な格好の少年が入ってくる。
「痛ててて…。」
かなり痛そうだ。
(ん?)
何かに気付くグラス。
「…あ、エルケ。」
その声に思わずエルビスルックが反応した。
「おぉグラスじゃないか。奇遇だねぇ。」
顔に仄かに笑みを浮かべるエルケ。
「おまえの笑顔はいつも不気味やねん。」
嫌そうにグラスが言う。
「なんじゃ知り合いか?」
「あぁ腐れ縁の鳥人間。」
「鳥人と言え。」
やたら拘る鳥の人。
「はいはい。」
グラスは相変わらず彼に対して素っ気無い。
「話はそのへんにして、三蔵、この少年の腕を治してやっとくれ。」
「わかりました。」
老人に言われて掃除機が鳥人間に近寄ってきた。
「何だ?勝手に掃除機が!?」
「では、いきますよ。マザー!!」
以外にビビリな鳥人間と律儀な掃除機。不思議な絵柄である。
「グ、…ググ、グ、グラス、この掃除機なんなんだ?」
あからさまに怯えすぎ。
「あぁおまえの親戚みたいなもん。」
「はい?」
「掃除機中毒者。」
漢字6文字の中々にわかりやすい表現ではある。察しのいい人なら。
「ちょっとその言い方は好きではありません。」
三蔵が口をはさむ。
「ほな、何て言うたらえぇねん?」
「愛と勇気の掃除機好きとでも言って下さい。」
「そんなボケはいらん。」
「………。」
黙る三蔵。
「で、何でこの掃除機とおれが親戚みたいなものなんだよ?」
「………。」
黙るグラス。いや、無視か。
「おい、何か言えよ!」
「さっきの説明で解かれよ。」
「解からないから聞いてるんだよ。」
解からない事は怖いようで、かなり聞きたいらしい。
「めんどいなぁ。じゃあ解かりやすく説明すると…。」
「すると?」
「あれはノア暦1874年11月3日の事。ミュンヘという小さな村で元気な男の子が
生まれたそうな。名前をグラスといい…。」
「そこから話すのか!!」
途中まで相槌を打ちながら聞いていたエルケが標準語でつっこむ。
「なんやねん。途中で止めんなよ。」
「もっと短く話せよ。」
「はいはい。えっとじゃあ、名前をグラスといい…。」
「続けるなー!!」
「短気やなぁ。」
エルケははっきり言ってかなり扱いやすい。
「あのー、わたくしから説明します。」
エルケに救世主現る!
「うわぁ喋るなぁ、気持ち悪い!!」
not救世主。そして、ビビリすぎ。
「失礼ですねぇ。簡単に言えば、魔獣伝説の例外ですよ。」
「おぉそうなのかなるほど。」
エルケの表情に余裕が戻る。正体が解かれば怖くないらしい。
「えっと言い忘れてましたが、ここの召使いをやっておりますコーネル三蔵です。」
「あぁこれはどうもご丁寧に。おれは先日鳥人になったエルケと言います。」
「何を隠そうわたくしは調理師免許を持っていまして、ここの料理当番も
やっているんですよ。」
自己紹介合戦を始めた彼らとグラスをバックにすっかり忘れ去られている人が約1名。
老人はいつの間にかまた静かに読書に耽っていた。
嵐は変わらず吹き荒れていた。
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