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1.
難攻不落の城キングスマンティス―――その城を攻略し故郷を救うのがおれの使命だ。
そう、おれは剣士。だた少しだけ魔法が使える。
おれの故郷は今キングスマンティス城を本拠とする東バルク帝国の支配下にあり、
その非情たる悪政において苦しめられている。
旅立ちの日、その日は突然訪れた。
2.
「今日は霧かぁ。暇だなぁ。」
思ってる事が自然と口に出る。
「あの城を落とそう。今日おれが暇なのも多分きっとあの城の所為だ。」
多分かきっとかどっちなのか、そんなことはどうでもいいが、妙な使命感にかられたのは事実である。
まぁただの暇潰しなのだが…。
「取り敢えず、これだけ持って行くか。」
そう呟くとかなり大きなダイヤの原石を手に取った。彼の宝物の一つである。
「うん、留守のうちに家族に盗られたら嫌だしな。」
そして、うっし出発だぁ!!と言わんがばかりにその石を掲げ家を飛び出した。が、
「グラスぅー、ごはんよー。」
母の声だ。
「あいよー♪」
先にメシ食って行くかぁ。やっぱ腹が減っては…って言うしな、などと思う少年。
「ごっはん、ごっはん♪」
3.
「ここ山だよなぁ。城行くのに山なんてあったっけ…?」
酷く方向音痴なグラスだった。
「確かこの山って魔獣がいるんだよなぁ。」
「おいっ、こんなとこで何してんだ!?」
「あぁエルケか。死ね!」
言うと同時にグラスの左ストレートがエルケのみぞおちに強烈にヒットする。
「ぐふっ………。」
10秒経った。その10秒の間グラスは何もなかったかのように歩き出し、
エルケとの距離は大きくなる。
「待…てよ。」
多分常人じゃ聞き取れない声だったのだが、無駄に地獄耳のグラス。
やたらドスの聞いた声で聞き返す。
「何だ!?まだ生きてたんか。」
グラスは本当は関西弁だったりする。
「待てよ。」
「何や?」
「何でいきなり殴るんだよ?卑怯じゃないか。そんなの勝負じゃない。」
実はエルケは一方的にグラスをライバルだと思っている。片思いみたいなものか。何だそれ…。
一応幼なじみで同じく剣士になった少年である。
幼なじみか。やはりよくある恋愛話みたいなものか。何だそれ…。
「うっさい、死ね。」
エルケの質問は全く無視。
「おい、おれの質問は?」
エルケ頑張る。
「あぁわかった。おまえおれと遊びたいんやな?そうやな?野球でもしよけぇ。
おれピッチャーなぁ。」
グラスの手にはいつの間にかあのダイヤの原石が握られていた。
「えっ?」
それが彼の最期の言葉だった。
「くらえっ!!バーニングスクリューボーーール!!!!」
ボフッ………!!!!!!!
言葉では言い表せないようなとてつもなく鈍い音が山にこだました。
「あぁこれってこんな使い方もあったのかー。新発見やな。やっぱりおれの宝物や♪」
と、大事そうに原石を拾い上げる。
「あ、そうや。こいつの剣もらってこーっと。剣持って来んの忘れてたしなぁ。丁度えぇわー。
この剣で城攻略したら、こいつも浮かばれるっちゅうもんや。はっはっは…。」
我ながら素晴らしいひらめきと自画自賛のグラス。
「さて、行くか。そういえば、魔獣ってどんなんだったっけか…。」
そう、呟きながらグラスは山の奥へと歩いていった。
4.
しばらく歩くと川があった。水のせせらぎが気持ちの良い音色を醸し出している。
しかし、まもなくその音色を汚す耳障りな音が聞こえてきた。
バッサバッサバッサ…。
「ん?何だ?」
グラスの目の前に人間ほどの大きさのある生き物が舞い降りてきた。
「何や。鳥か。」
「また会ったなグラスぅ。君に会えてほんとに嬉しいよ。」
鳥らしき生き物の笑顔が怖い。
「誰やおまえ?何でおれの名前知っとるねん?」
物怖じもせず普通に話しかける。が、その顔が疑問の顔に変わる。
「あ、そういや鳥がしゃべってる。」
「おれはエルケだよ。もう忘れたのかい?」
「あぁどっかで見たことある顔やと思ったらエルケか。」
「そうさ。」
「あっそ。おまえは性懲りもなく。大体何やその格好は?」
「鳥さ。」
「はいはい、おまえは独りで鳥人間コンテストでもやってろ!」
そう言うや否や再び左ストレート!!
しかし、エルケは翼をはためかせ飛び避けた。
「あれ?かわしやがった。」
「フッフッフ、おれはおまえを倒すため甦ったのさ。」
「ふーん、でも何で鳥の格好なのさ?」
「おれは鳥が好きだったからなぁ。」
「あぁそれでー。」
いや、納得していいのかグラス。うむ、あながちその行動も間違いないようだ。
「そういや、この山で人が死ぬと、その人が生前一番好きだった動物の姿に
半獣化して甦るってアレか?」
「そう、その魔獣伝説だよ。」
「ふーん。で、鳥人間になったわけか。納得♪」
「鳥人と言え!」
怒る鳥。
「はいはい、死ね!」
グラスの宝物が唸り、上空のエルケ目掛けて飛んで行く。
「そんなもの当たるか。こっちはこの広い空だぞ。」
表情ひとつ変えずエルケは投石をかわした。
「あ、外れた。外れたらおれの石どっか行くやんけ。」
文句たらたら垂れながら原石を拾い上げようとエルケに背を向けた瞬間、
「今だ!」
エルケの羽根攻撃!!
サーベルレインと呼ばれる無数の羽根の刃がグラスの背中目掛けて空気を裂く!!
「あまいな。」
「何!?」
エルケの羽根はグラスの背中に刺さる前にジュッと音を立て灰も残さず全て焼け落ちてしまった。
驚くエルケを見上げながら、
「卑怯じゃないか…。デジャヴじゃなけりゃ、さっきおまえが言った言葉だったなぁ。」
「うっ、今のは何だ?おれの羽根は何故?」
「ん?忘れたんか?おれらは一緒に魔法を習った仲やんけ。今のはバーニングやで。」
「何!?バーニングというと炎の魔法の基本のアレか?」
「そうや、その応用版。おれなりにアレンジしてみたんや。」
「くっ…。」
「因みにフレイムウォールって名付けてみた。」
「くそっ、今日はどうやら日取りが悪いようだ。」
グラスは全くエルケの話を聞いていない。エルケの言葉は独り言になった。
「空やし剣当たらへんしなぁ。剣の方が好きなんやけどなぁ。」
グラスの左手の周りの空気の密度が濃くなり始める。
「何をブツクサ言っている?日を改めてまた来る。さらばだ。」
「おぉじゃあな。」
別れのあいさつをかわした瞬間、
ドフッ!!!!
と、大きな音がし、エルケはまっ逆さまに川に落ちて行った。
ボイスフラッドだ!!声を凝縮した超振動の空気を相手に放つ風系の魔法。
「あれっ?おかしいなぁ。バーニング使ったつもりやってんけどなぁ。間違えたなぁ。
焼き鳥の具にでもしたろかと思ってたのに。
だから、魔法より剣の方が好きなんや…。まぁいっか。」
気が付けば、川の小さな音楽家がまた綺麗な演奏を再開していた。
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