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暗黒への誘い
「ああ、あなたも暗黒始められたのですかー。」
ここは夜の盛り場。夜も8時を回って、いよいよ活気付いている。
「そうなんですよー。恥ずかしながら。」
照れくさそうに告白する男とイギリス系の男が
何やら”暗黒”について話している。
「いいでしょう?暗黒。」
「ええ、そらぁもう。」
照れくさそうに話していた男の顔から笑みが零れる。
「しかし、ハーマンさん。始めたばかりだと、
やっぱり奥さんとかいい顔しないでしょう?」
笑顔が初々しい彼は、ハーマンというらしい。おそらくドイツ系である。
「そうなんですよぉ。だから、今は見つからないように
夜になってからこそこそやってるんですよー。」
「最初はそんなもんですよ。でもね、そのうちわかってくれます。」
「そういうもんなんですかぁ?」
玄人っぽさの滲み出るイギリス系とは裏腹にやたらに危惧するハーマン。
「そうですよ。うちなんかはね、家族揃って暗黒の虜ですから。」
あっはっはとジェントルに笑いながら言うイギリス系。おそらく名前はジェームスっぽい。
ジェームスにしておこう。
「そいつはいいですねー。」
「そうなんだよ。いつも家に帰るとね、
あなた、ご飯にする?お風呂にする?それとも、暗黒?
ってな具合だよ。」
”暗黒”の話をする時のジェームス(仮)の顔は本当に楽しそうだ。
「いいなー。」
”暗黒”初心者のハーマンは凄く羨ましそうである。
しかし、そもそも”暗黒”とは何なんだろう。
「でも、あれだね。最近ダイエットって何でもあるよね。」
突然話が変わった。
「ああ、そうですよねー。暗黒ダイエットとか。」
変わってなかった。
ハーマンが続け様に言う。
「あれって、痩せるっていうよりかヤツれるって感じですよねー?」
「そうだね。暗黒痩せってちゃんとした言葉もあるけど、
実際はヤツれてるってのが正解かな。」
”暗黒”はある意味ダイエットにもなるのか。
「その目の下の隈も暗黒痩せの効果ですか?」
「そうなんだよ。でもね、うちの娘なんか凄いよ?
年頃だからか、もうこの暗黒ダイエットで頬もかなり凹んでいるよ。」
「それはちょっと心配ですねぇ。」
なんか”暗黒”って怖そうだ。
「そう、心配なんだよ。でもねぇ、最近暗黒もメジャーになってきたよね?」
「そうですよねぇ。一昔前までは暗黒って何?って感じだったのに。」
”暗黒”は流行っているのか。
「今では、何でも暗黒だよ。暗黒テレビに暗黒パソコン、暗黒入り食品だとか色々だね。」
いっぱいあるんだなぁ”暗黒”って。世界に蔓延ってるよ。
「知ってます?暗黒って、あの暗黒大国日本から伝わった言葉なんですよ?」
「ああ、勿論知っているともさ。私はもう暗黒歴5年だよ?」
「すいません、失礼しました。」
5年と初心者じゃ格が違うんだね。
「暗黒は、日本から伝わった当初はANKOKUって呼ばれていたね。」
「はい。」
「それが今ではすっかり定着して、一般的に暗黒って呼ばれるようになったんだ。」
「そうでしたね。今では新聞でもそういう表記になっていますしね。」
語られる暗黒の歴史。
「けれども、やはり最近はダウンサイジングの時代だよ。」
「そうなんですか?」
「こう見えて私の趣味はダウンサイジングでねぇ。
ほら、こんな風に暗黒もダウンサイジングしちゃったよ。」
「わぁ凄いですねー。暗黒がこんなに小さいのに密度が濃くて、
普通に受ける感覚とそんな遜色ないですよぉ。」
「そうだろう?」
自慢げなジェームス(仮)。
「それどころか、密度の濃い分寧ろ普通の人より強いじゃないんですか?」
「そうなんだよ。普通ならこうオーラ状なんだけどねぇ。
それだと薄いし、全身に纏ってるからやっぱ弱いでしょう?」
「なるほどー。こういう使い方もあるんですねー。流石暗黒歴5年!!」
専ら関心する初心者ハーマン。ちょっとヨイショが上手い。
「でもね、ここまでするのに4年半かかったんだよ。
だからできたの最近なんだよ。」
「でも、凄いですよ。もうかなりダークサイドじゃないですかー。」
「あっはっは…。」
褒めちぎるハーマン、褒められて嬉しそうに笑うジェームス(仮)。
そんな2人の間に1人の男が近づいてきた。
「やぁ、ジェームスにハーマン、話って何だい?」
近づいてきた男はどうやら知り合いらしい。
それより、ジェームスって名前で合ってたんだっ!?
「遅かったじゃないか、ダニエル。」
このチコッキーはダニエルというらしい。
「話っていうのは、暗黒についてなんだ。」
いきなり切り出す2人。
「え゛っ?」
表情が曇るダニエル。
「そう、強張るなよ、ダニエルぅ。
おれもこないだ始めたんだけどさぁ、これがいいんだよ。
騙されたと思ってやってみろよー。」
怪しい勧誘が始まったようだ。
「嫌だよ。あれって今やたらと流行ってるけどさぁ、
科学的根拠とかないじゃん?」
「でも、暗黒は素晴らしいってテレビでもよく言われてるし、
専門書もたくさん出ておるよ?」
「えぇ、けどさぁ。あんま流行物ってのも好きじゃないしさぁ。」
「そんなんで判断して欲しくないなぁ。
やってみないとわかないでしょ?」
「そうかもしんないけどさぁ。」
あんまり乗り気ではないダニエルと対照的に
2人は嵐のような怒涛の勧誘で襲っている。
「ほら、暗黒してないとモテないよ?」
「え゛っ?そうなの?」
そこを突くのは卑怯だ。
「君に未だ奥さんがいないのも暗黒面が足りないからだよ。」
「えぇ…、マジでかぁ。ちょっと考えるなぁ…。」
なんかダニエルが不憫でならない。
「ここが勇気の出し所だよ!」
トドメの言葉だ。
「うう…、ん〜、やって…みようか…な?」
アウトー!!
「そうだよ、そうこなくっちゃ!」
「良い判断だと思うよ。」
死んだなダニエル。
「そ、そう?」
「うんうん、これでモテモテ間違いなしだね!」
「あっはっは、まったくもってね。」
「そっかー☆」
おだてられ、妙にやる気が湧いてくるダニエル。
この瞬間、また一人の男が暗黒世界への一歩を歩み出した。
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